男性妊活とサプリメントの関係性。サプリメントで体質を改善できる?

【監修】
二宮 英樹:
医師、データサイエンティスト。福岡県出身。東京大学医学部卒業。専攻は公衆衛生学。
阿部 裕紀:
薬剤師。東京都出身。星薬科大学薬学部卒業。専攻は薬物治療学。
※詳細プロフィールは記事の最後に記載しております。
みなさんは、男性妊活の基本となるのは何だと思いますか。妊活といえば、女性の負担がとても大きいことが知られています。食生活に気を付けたり、ヨガや軽いスポーツでめぐりや血行をアップし、サプリで体質改善を目指す女性もたくさんいます。
また、毎朝眠い目をこすりながら基礎体温を測るパートナーの姿に、心を痛める男性も少なくないのではないでしょうか。「うちの奥さんは偉いなあ」と思っている男性のみなさん、体質改善は女性だけに必要なものではないんですよ。
男性にとっても、妊活でとても大きな役割を持つのが食生活や生活習慣の改善です。なぜなら、食生活を改善し体調を整えることが男性にとって重要なポイントだとわかってきたからです。そこで注目が集まっているのが、栄養素を効率的に補えるサプリメントなのです。
妊活においても、サプリメントで足りない栄養素を補いたいという人が増えています。これまでは「葉酸」のように、女性がセレクトするものが多かったサプリメント。男性妊活ではどんな点が注目されているのでしょうか。
男性妊活でも重要な食生活改善。不妊治療の前でも、不妊治療中でもできる!
妊活が女性だけでなく、男性にとっても重要だと考えられ始めたのはそんなに古くからではありません。妊活という言葉が市民権を得たのもここ数年ですし、男性にとっても非常に大切だとわかってきたのはさらに最近のことです。
妊活というと、みなさんはどんな活動を想像しますか。やはり病院へ行って、精子検査を受けるといったことが主な活動だと思われるのではないでしょうか。でも男女問わず、病院で何度も検査を受けることは、お金の負担も精神的負担も大きなものですよね。男性にとっては、より気持ちが重いのではないでしょうか。
実は、こうした病院で行う本格的な妊活の前に、家庭ですぐにできる妊活もいろいろとあるのです。そのひとつが食生活の改善。
食生活改善なんて、妊娠する側の女性がすることでは?と考える男性もいるかもしれません。でも、男性の妊活にとっても、食生活改善はとても重要な役割を担っているのです。
素肌の美しさやスタイル維持に強い関心を持っている女性にくらべ、男性はメタボリックシンドロームが気になってくる年齢に達しないと、あまり生活習慣や食生活の改善のことに関心が向きませんよね。
でも、食生活改善は男性妊活にとって大きなカギのひとつとなります。男性の妊活で最も重要なのは質が良く、元気な精子を作り出すことです。その基盤となるのは、やはり男性本人の健康。そこで食生活改善による体調アップが重要になるのです。
元気な赤ちゃんを授かるための体作りには、やはり普段の食生活改善が大切です。でも、忙しく働く男性にとって、三度の食事だけで必要な栄養素をすべて摂取することは至難の業ですよね。そこでサプリメントが注目されているのです。
サプリメントによる食生活の改善は、病院で行う本格的な不妊治療の前からスタートできます。そして、妊娠に至るまでの治療中にも並行して行うことができます。パートナーの女性とも一緒に頑張っていける、絆を深める妊活のひとつともいえるのではないでしょうか。
男性妊活・体質改善に役立つと言われる代表的な栄養素

では、男性の妊活のひとつとして注目を集めている体質改善には、どんな栄養素が役立つのでしょうか。まずよく知られているものに「亜鉛」があります。亜鉛は私たち現代人に不足しがちなミネラルのひとつです。
近年注目を集めているのが、コエンザイムQ10です。コエンザイムQ10は、抗酸化作用を持つ成分のひとつです。サプリメントも人気で、老化防止や疲労回復のために摂取しているという人も少なくありません。
抗酸化作用をもつ食べ物は、妊活のための体作りに役立つとされています。精子は酸化に弱いため、健康をむしばむとされる酸化はやはり妊活にとっても大きな壁と言えます。特にビタミンEには強い抗酸化作用があると言われています。
ビタミンEを多く含む食べ物はいろいろあり、ナッツ類や魚介類、緑黄色野菜などに多く含まれています。サプリや美容コスメにもビタミンEを含有しているものはいろいろあるので、パートナーの女性といろいろ話し合い、情報を交換し合うと良いですね。
また女性の妊活にも欠かせないとされている葉酸も、正常な精子の生成に関わっていると分かってきました。これから妊娠を考えているのであれば、早い段階から葉酸を日常生活の中で補っていきたいですね。
ここで紹介したさまざまな栄養素のうち、この記事では特に男性不妊の体質改善に役立つとされている「亜鉛」と「コエンザイムQ10」に注目してみたいと思います。まずは亜鉛から、詳しくチェックしてみましょう。
亜鉛というミネラルについて詳しくチェック!現代人には不足しがち

亜鉛はミネラルの一種であるということは先ほどご紹介しました。亜鉛というと「重金属と違うの?」というイメージがあるかもしれませんが、実は私たちの健康維持に非常に重要な役割を果たしているのです。
これまでは、一般的な日本人の食生活で不足することはあまりないとされてきました。しかし、近年食生活の変容にともなって、日本人の亜鉛不足が指摘され始めています。では亜鉛は、どんな役割を果たしているのでしょうか。
亜鉛は私たちの体の中に存在する酵素、約300種類以上に関わる成分のひとつです。皮膚や骨・筋肉のほか、肝臓や眼球などにも存在しています。細胞分裂を促し、新陳代謝や免疫機能の調整・皮膚や粘膜・爪の保持などにも深く関わると考えられています。
亜鉛は、私たち大人の体の中に、だいたい2gほど存在すると言われています。大人の平均体重を60㎏と考えても、2gというのは本当に微量ですよね。
でも、体内では生成できないので、食べ物から補う必要がある必須ミネラルのひとつです。そして、不足すると恐ろしい症状を引き起こします。
よく知られている味覚障害のほか、免疫力低下・皮膚や爪の異常・成長障害などを引き起こすことがあります。爪に白い斑点が現れると、亜鉛不足のサインと言われます。
そして、男性のEDの引き金になっているともされているのです。それだけではありません。精子の数や運動率にも栄養を及ぼすことが分かってきています。
亜鉛不足は男性妊活の大敵!だからサプリメントがおすすめ
亜鉛不足は、性的機能の成熟の遅れや、成熟した性的機能の低下をもたらすといわれています。精子や男性ホルモン・テストステロンの生成にも大きな影響を及ぼすミネラルです。
精子は女性の卵子同様、細胞分裂が活発な細胞なので、亜鉛が不足することで生成機能が低下する可能性があります。
また男性の精液に含まれる前立腺液には、亜鉛が高い濃度で含まれていると言われています。
男性ホルモンの生成・分泌をサポートする亜鉛が不足してしまうと、勃起不全(ED)を引き起こす原因にもなりかねません。それほど、亜鉛不足は男性不妊に深く関わる栄養素なのです。
では亜鉛はどんな食べ物に多く含まれているのでしょうか。亜鉛は人体でも筋肉などに含まれているとご紹介しましたが、やはり肉類や魚介類に多く含まれています。特に多く含まれているのはビーフジャーキーで、100gあたり8㎎以上含むとされています。
そのほかにも豚レバーや牛ひき肉に多く含まれます。魚介類では牡蠣に圧倒的に多く含まれており、100gあたり13㎎とされています。ほかにはするめやハマグリの佃煮などに多く含まれます。
またパルメザンチーズやカマンベールチーズなどの乳製品、ゴマやカシューナッツなどのナッツ類にも含まれ、意外なことに海藻類にも含まれている食材です。しかし100gあたりの含有量はどれもそんなに多くありません。
さらに、亜鉛は主に小腸で吸収されますが、食べた量の30パーセントほどしか吸収されません。また、日常的にはたくさん食べられないものや塩分を多く含むものなど、食事だけですべてをカバーするのはちょっと難しいですよね。
そこでサプリメントが注目されているのです。サプリメントから亜鉛を摂取すれば、塩分や油分などの摂り過ぎに悩む必要なく、効率的に亜鉛を補うことができます。また亜鉛は女性の卵子生成にも深く関わっているので、夫婦で仲良く摂取することもオススメなんです。
亜鉛は摂り過ぎもよくありません。男性に必要な亜鉛の摂取量は1日に12㎎、上限は40~45㎎とされています。今日のメニューを見ながら、上手にサプリメントをプラスしていくとよいですね。
では次に、女性からも熱い視線を注がれているコエンザイムQ10について、詳しく調べてみましょう。
コエンザイムQ10とは?男性妊活にどんな役割を果たすの?
人気サプリメントとして注目されているコエンザイムQ10ですが、いったいどんな成分なのでしょうか。コエンザイムQ10は、ユビキノンとも呼ばれる「ビタミン様物質」です。
ビタミンは本来人の体の中では生成されないのですが、コエンザイムQ10は人の体の中でも合成されているため、ビタミン様物質と総称されています。
コエンザイムQ10は人体のほかには肉類や魚介類などに含まれる、脂溶性の物質です。「コエンザイム」とは本来「補酵素」という意味で、体の中でエネルギーの産出に深く関わっています。
私たちはエネルギーを産生し、活動をしています。食べたものの栄養や、呼吸で得た酸素がエネルギーに関連していることはわかっても、実際にはどこで作られているのか謎が多いですよね。その謎を解くカギとなるのが、コエンザイムQ10なのです。
コエンザイムQ10は、人間をかたち作る60兆個の細胞に含まれている、「ミトコンドリア」にたくさん存在しています。
ミトコンドリアはエネルギー生産工場と呼ばれ、生命活動に使用されるエネルギーのほとんどを作り出しています。コエンザイムQ10がなければ、私たちを生かすエネルギーがしっかり生成されなくなってしまいます。
さらに、コエンザイムQ10には抗酸化作用もあります。同じく抗酸化作用を持つというビタミンEに働きかけて、抗酸化作用を発揮させるという力も持っています。エネルギー生成と抗酸化作用に関わる重要な成分ということで、近年非常に注目されているのです。
体質改善という観点からも、男性妊活でコエンザイムQ10を摂取することはとても意味があります。
年齢とともにエネルギー生成能力も低下していきますし、毎日の仕事で積み重なるストレスに負けない体づくりにも役立ちますよね。実はそれだけではありません。コエンザイムQ10は、男性不妊改善に大きく役立つ成分ということが分かったのです。
コエンザイムQ10の臨床試験結果からわかる精子の質改善効果
2011年に発表された『日本生殖医学会雑誌』の中で、「男性不妊症患者に対する高容量コエンザイムQ10療法は精子の運動率を高める」という論文が紹介されています。では、どんな研究だったのでしょうか。
精液検査で精子の濃度や精子の運動率が低いことが男性不妊の原因となっていることが分かった患者さんに、高容量のコエンザイムQ10と抗酸化作用を持つビタミンC・ビタミンEを配合したサプリメントを摂取してもらったところ、嬉しい結果が出たのです。
摂取をはじめて3ヶ月の段階で、精子の運動率が改善されたと報告されています。また、精子の濃度もアップしたそうです。169名の不妊患者さんに対して行われた実験でしたが、48例が無事妊娠を果たし、なんとその中でも7例は自然妊娠だったそうです!
男性側に不妊の原因がある場合、その9割が精子を作り出す機能に問題があるため精子が少なく、活発でない状態になってしまっているケースが多いのです。
特に精子は女性の膣内や子宮内を泳いで卵子にまでたどり着く必要があり、運動率や濃度はとても重要なポイントとなります。
その点を考えても、コエンザイムQ10の持つ精子の質を改善する能力は、男性妊活に大きな光となるものと言えるでしょう。女性にとっても嬉しい成分なので、やはりパートナー同士互いの役割を理解し合いながら、飲み続けられるサプリメントとなりそうですね。
サプリメントは薬とは違います!ゆっくりと栄養補給を目指しましょう
サプリメントは薬とは違い、不足しがちな必要栄養素を食事の一環として補うものです。薬ではないため、その日のうちに驚くような効果が出るものではありません。
でも、薬ではないからこそ、いずれパパやママとなる体に大きな負担をかけずに、体質を改善してゆくことが期待できるのです。
例として挙げると、コエンザイムQ10を含んだサプリメントの高容量摂取臨床実験でも、結果が出るまでに3ヶ月はかかっています。
人間は新陳代謝を常に繰り返すことで、細胞もすべて新しく生まれ変わっていきます。つまり、食べたものが体質を改善していくには、それなりの時間を必要とするということです。
精子は射精されてからだいたい2、3日~1週間の命と言われていますね。でも精巣で作り出されるには、2ヶ月以上の時間を要するといわれています。元気な精子を作り出すためにも、サプリメントでしっかり栄養素を補っていきましょう。
【この記事の監修】

二宮 英樹(にのみや ひでき)
医師、データサイエンティスト。福岡県出身。東京大学医学部卒業。専攻は公衆衛生学。
東京大学医学部卒業後、関西医科大学枚方病院、セレオ八王子メディカルクリニックなどで診療に従事。薬や手術に頼るだけではなく、コミュニケーションや触れ合いを活かした診療をモットーに患者との対話を重視する一方、データサイエンティストという異色の肩書きを持ち、医療技術や医薬品などの有効性について原典にあたり、評価手法やデータの有効性について常に確認を欠かさない。
地域包括ケア研究所にて医療局長を務め、医療者として地域社会のひとりひとりのための医療や正しい知識の普及活動に従事している。これまでヘルスケアメディアを通じて、正しく、分かりやすい健康情報の発信に携わってきており、医療や健康は一人ひとりの個人差がとても大きいため、個人にあわせた情報を記事で発信することの難しさを実感。情報を丁寧に紐解くことで、自分にあった正しい情報が分かるような発信を心がけている。

阿部 裕紀(あべ ひろき)
薬剤師。東京都出身。星薬科大学薬学部卒業。専攻は薬物治療学。
現在、化粧品会社に製造責任者という立場で品質管理などに携わる傍ら、薬に頼らないセルフケア(予防)を追求し、啓蒙活動を行う。ドラッグストアでの勤務経験を活かし、ライフスタイルに合わせた健康食品やサプリメントのアドバイスなども行う。
個人的には、薬はあまり好きではなく、自然なもの(食品に近いもの)で身体の不調を治すことを常に考え、アドバイスを行っている。