男性妊活の基本その② 精子の基礎知識や精子検査について

【監修】
江夏 徳寿:
医師、英(はなぶさ)メンズクリニック 院長。鹿児島大学医学部卒業、神戸大学大学院医学研究科卒業。生殖医療専門医。泌尿器科専門医。指導医。
二宮 英樹:
医師、データサイエンティスト。福岡県出身。東京大学医学部卒業。専攻は公衆衛生学。
阿部 裕紀:
薬剤師。東京都出身。星薬科大学薬学部卒業。専攻は薬物治療学。
※詳細プロフィールは記事の最後に記載しております。
妊娠を望むカップルは、女性だけでなく男性も積極的に妊活を行う時代がやってきました。男性不妊という言葉も、男性妊活も認知度が少しずつ高まっています。といっても、妊活という言葉自体そんなに古いものではありません。ジャーナリスト白河桃子さんが提唱した言葉で、日経ウーマンオンラインで流行語となったのが2011年です。
それから数年が経過した今、男性妊活はどういったものになっているのでしょうか。まずは妊活についてご紹介していきます。
妊活という言葉が注目された理由
妊活という言葉が急激に注目を集めたのは、女性の卵子が「老化する」ことが不妊につながるという研究が認知されてからと考えられます。
女性の卵子はひとつの細胞です。「卵」と聞くと新しく生み出されていくイメージがありますが、卵子のもととなる「原始卵胞」は女性が生れたときには既に卵巣の中に蓄えられています。原始卵胞は出生後新しく作り出されることはなく、むしろ年齢とともに減少していきます。女性自身が年齢を重ねていけば、その分卵子も歳を重ねていく(老化する)ということになります。
その事実は、女性たちに大きな衝撃を与えました。しかも卵子が老化し妊娠が難しくなる年齢は、当時35歳と紹介されたのです。35歳といえば、妊娠出産をする女性もたくさんいます。結婚したばかりで、これから今後の妊娠について考えようと思っている女性も多くいたはずです。2011年にはすでに、女性は社会に進出することが当たり前になり、自分がしたいときに結婚するという姿勢もごく普通になっていました。
医学の進歩もあり、人によっては40代半ばで赤ちゃんを授かることもあります。しかし、突如唱えられた「35歳で妊娠する力が衰え始める」という説は、多くの女性たちを焦らせるものでした。
さらに衝撃的なのは、男性の精子も老化する、という事実です。男性の精子も細胞のひとつです。男性自身の身体が衰え始めれば、当然精子も衰えます。男性の精子が老化しはじめるのは35歳くらいと言われ、やはり40歳を過ぎると妊娠させる力は大きく下がります。加齢は男性の不妊症の原因ともなります。精子の老化は、精子の働きにさまざまな影響を与えるのです。
それでは、男性の精子とはどんなものなのでしょうか。身近なようで意外と知らない、精子の「姿」を見てみましょう。
精子の基礎知識!健康な精子とはどんなもの?
精子は、オタマジャクシのような形をしています。頭の部分に父親のDNAなどの重要な情報を詰め込み、お腹につけたミトコンドリアの力でしっぽを動かして泳ぎます。精液中の精子を検査すると、精子が精液中でどんな動きをするのかがよくわかります。健康で質の良い精子は、前へ前へと力強く進む力を持っているのです。
正常な精子は
・1ml中2000万以上精子がいる(理想は4000万以上)
・射精してから2時間以内に前進運動をする精子が5割を超える
・奇形の精子が70%以下
と言われています。
精子は、だいたい74日ほどかけて、発生から射精されるようになるまで成長していきます。男性の睾丸の中では、1日に数億の精子が作り出されます。一度の射精で、精子は1~4億くらい排出されます。精子を守るために、弱アルカリ性の栄養豊富な精液も一緒に排出されます。しかし女性の膣の中は弱酸性で、精子にとってはとても厳しい環境です。ここでほとんどの精子が淘汰され死んでしまうのです。
それだけでなく、弱酸性の環境に数時間さらされると、精子は活動性を失ってしまいます。すると前へ進む力を失い、卵子にたどり着くことができなくなります。子宮頚管に満たされている粘液は精子にとって優しい弱アルカリ性なので、強い生命力を持った精子だけが頸管にたどり着いて生き延び、子宮の中で卵子と出会う瞬間を待ちます。精子の寿命は3日から7日と言われています。それでも卵子までたどり着ける精子は数百にも満たない数です。その中でも強い生命力を持った精子だけが、卵子の中へと潜り込み受精を果たします。しかしその短い寿命の中で卵子に出会うことがかなわなかった精子は、静かにその生を終え、女性の体内に吸収されてしまうのです。健康で質の良い精子は、このような活動を行います。しかし不妊症の場合、こういった受精に向けての活動が難しくなってしまうのです。
精子に起きる異常とは…不妊原因になる病気
精子にとって大切なのは量、そして質です。精子はDNAや染色体など、貴重な情報を卵子へと運ぶ重要な役目と、強い前進力を持っています。しかし精子や精液、射精能力などには様々な異変が起こる可能性があり、男性不妊を引き起こします。
○無精子症
○乏精子症
○精子無力症
○勃起障害(ED)
などがその代表です。
無精子症は、精子が精液中にまったくいない状態です。無精子症や精子が非常に少ない乏精子症と診断されると、自然に女性を妊娠させることは難しいと言えます。精子量が少なければ、当然子宮の中で生き延びられる数自体が減って、受精のチャンスが少なくなります。
しかし妊娠する上では、精子の量だけなく、精子の「質」も大切です。精子の質とは、運動率や、奇形率をさします。運動率が悪ければ、子宮の中を卵子に向かって泳ぐことができません。運動率は受精率に大きく影響を及ぼします。奇形率は、もともととても高いものです。30%以上正常な形をした精子が精液内にいれば、正常といわれるほどです。奇形がどこにあるかもポイントです。しっぽ部分に奇形があると、きちんと前進できないこともあります。最も深刻なのは頭部です。頭部には重要なDNA情報が積み込まれているため、頭部に奇形がある場合は受精率がぐんと下がってしまいます。
精子無力症と診断された男性の精子は、重要な運動率が悪く、パッと見てほとんど動かない状態のこともあります。そして困ったことに、男性不妊原因になるこれらの病気は、ほとんど自覚症状がありません。普通に射精できていれば、まさか自分に不妊原因があるとは思いませんよね。しかし、実際には検査してみなければ不妊かどうかは分からないのです。
精子検査は男性妊活を始める上でも重要

より効果的な妊活をスタートさせるためにも、精子検査は非常に重要です。精子検査は、病院でマスターベーションによって得た精液を、顕微鏡などで観察して行います。一定量の中に含まれる精子の数はもちろん、奇形率や運動率、採取されてからどのくらいの時間運動率が持続するかなど、さまざまな点がチェックされます。
精子検査は奥様と一緒に産婦人科で受けることができます。でも、多くの男性は婦人科で診察を受けることに抵抗を感じてしまいますよね。そこで、ほかにも受けられる場所をご紹介します。
○総合病院などにある不妊外来
○泌尿器科
○男性専門のクリニック
こういった場所なら、抵抗なく受けられるのではないでしょうか。
その他にも、病院に行く時間が無い、または誰にも知られたくないという方にぴったりの、郵送精子検査が2回分ついてくる、男性妊活スタートパックのあるサプリメント・マイシードもあります。郵送精子検査は自宅で採精可能で、誰にも知られることなくサプリメント使用前・使用後の精子の検査を受け、結果を受け取ることができますよ。ただし、男性自身が産婦人科を受診することに抵抗があっても、奥様が初めて不妊検査を受ける時は、ぜひ一緒に行ってあげましょう。
女性の不妊検査についても知っておこう
女性の受ける基本的な不妊検査として、下記のようなものがあります。
○基礎体温
○フーナーテスト
○頸管粘液検査
○卵管造影検査
○超音波検査
その他に、血液検査などを行う病院もあります。検査は短くても1ヶ月ほどはかかります。またタイミングが悪いと数ヶ月かかってしまうことがあります。数ヶ月間毎朝体温を測って記入しなければならない基礎体温をはじめ、朝性交をした女性器の中の精子の状態を検査されるフーナーテスト、痛みをともなう卵管造影検査など、精神的にも肉体的にもつらい検査もあります。最初の卵管造影検査や超音波検査などで子宮筋腫や卵巣嚢腫(のうしゅ)などの病気が見つかれば、その治療の説明もあるかもしれません。
奥様は不妊かもしれないという不安や、たくさんの検査を受けなければならない不安でいっぱいになっています。もし最初の検査がとてもつらいものだったり、病気が見つかったりした場合は、医師の話を冷静に聞くことができないかもしれません。そんなときにそばにいて、一緒に医師の話を聞き、疑問に思うことはどんどん質問して納得できるまで説明してもらうことは、夫としての務めです。仕事が忙しくても、1日で構わないので奥様と休暇を合わせましょう。また奥様側は検査が1度では終わらないので、行けない時は励ましや優しく気遣う言葉をメールなどでかけてあげてくださいね。
産婦人科で不妊検査を受ける場合、待合室が不妊症外来と妊娠外来が一緒だと奥様はつらい思いをするかもしれません。「どうして私は赤ちゃんができないの」「なぜ私ばかりこんなつらい思いをしなければならないの」という気持ちで、胸が張り裂けそうになるかもしれません。そんな時は、奥様の気持ちに寄り添って話を聞いてあげましょう。ただ静かに話を聞き、優しくハグしてあげるだけでも、奥様の気持ちは慰められるのではないでしょうか。
男性妊活と精子の関係
では、いよいよ男性妊活と精子の関係について解き明かしていきましょう。男性妊活は、精子の質をあげ、質の良い精子の量を増やすことがポイントになります。男性妊活といっても、基本は女性の妊活と変わりません。精子は35歳をピークに老化していくので、なるべく早めに取り組むことが大切です。
不妊検査の結果が悪かった場合はもちろん、良かった場合も、明日はもっと時間が進んでいます。これからの人生で最もあなたが若いのは、今日という日なのです。良好と出た今日の結果を維持するために、男性妊活は赤ちゃんを授かるその日まで続けてほしいと思います。
不妊検査の結果が悪かった場合は、まずその原因になっている病気の特定と、治療が先決になります。不妊検査の結果が良かった場合も、病気が見つかり治療を先に行うことになった場合も、ぜひ続けてほしい妊活が「食生活習慣の改善」です。

私たちの身体を作っている細胞の材料も、エネルギーも、基本は食べ物です。毎日の食生活習慣は、健康の土台です。しかし働き盛りの男女の食事は、簡単に乱れがちですよね。朝は忙しくて抜いてしまう方や、飲み物だけで済ませているという方も多いでしょう。昼も外食、夜もインスタント食品では確実に野菜が不足します。野菜には健康を維持し、身体を活性酸素による酸化から守る成分がたくさん含まれています。活性酸素は細胞を老化させ、身体全体の老化や病気の進行に大きな影響を与えます。特に怖いのがDNAの損傷です。精子は卵子へ自らのDNAを運びます。しかし老化が進んで活性酸素によってDNAが傷ついてしまったら……考えただけでも怖いですよね。
もちろん活性酸素は細胞の老化に関わるので、活性酸素を除去することは精子の若々しさや質の高さを保つことに役立ちます。活性酸素を除去してくれるのが、抗酸化成分です。たとえばコエンザイムQ10やポリアミン、ビタミンEやビタミンCなどは強い抗酸化作用を持っています。また男性に必要不可欠なミネラル・亜鉛なども、しっかり補いたい成分です。でも、こうした成分を含む食品を、毎日必要分食べることは不可能ですよね。
そこで男性妊活でも女性妊活でも活用されているのが、妊活用サプリメントなのです。いろいろな成分のサプリをたくさん飲むのではなく、妊活に良い成分をまとめて摂れるサプリが人気を呼んでいます。男性妊活といっても、難しいことはそんなにありません。食生活習慣を少し健康的なものにシフトして、サプリメントで必要な栄養素を補いましょう。
また生活習慣病予備軍だと妊娠力も低下し、EDにもなりやすくなるので、軽い運動などをプラスして生活習慣も整えましょう。ストレスや睡眠不足は、精子の質を低下させるだけでなく、健康も脅かします。あまり気負わず、気負い過ぎている奥様の肩の力を抜いてあげながら、ストレス解消も楽しみたいですね。
妊活が成功して赤ちゃんが家にやってきたら、怒涛の育児時代が到来します。そうなれば、数年は夫婦での旅行やゆったりとした趣味の時間は取れません。妊活時間は貴重な夫婦の時間でもあります。食生活もふたりで食事をとり、それぞれのサプリを飲むなど協力し合えば、きっと習慣づけられますよ。
【この記事の監修】

江夏 徳寿(えなつ のりとし)
医師、英(はなぶさ)メンズクリニック 院長。鹿児島大学医学部卒業、神戸大学大学院医学研究科卒業。生殖医療専門医。泌尿器科専門医。指導医。
大学卒業後、済生会福岡総合病院にて研修医として従事。その後亀田総合病院にて泌尿器科後期研修医プログラムを終了し、より専門的な分野を学ぶために神戸大学附属病院へ転職。
男性不妊を専門として臨床経験を積む傍ら、神戸大学大学院へ進学し研究にも従事した。
大学院卒業後は神戸大学にて教鞭をとりつつ、泌尿器科全般の臨床に従事し、腹腔鏡手術の技術認定医も取得。
神戸医療センター西市民病院副医長を経て、専門分野をより深く極めるために英ウィメンズクリニックへ就職。
男性不妊に留まらず、不妊をトータルで診療するために、婦人科診療も行っている。

二宮 英樹(にのみや ひでき)
医師、データサイエンティスト。福岡県出身。東京大学医学部卒業。専攻は公衆衛生学。
東京大学医学部卒業後、関西医科大学枚方病院、セレオ八王子メディカルクリニックなどで診療に従事。薬や手術に頼るだけではなく、コミュニケーションや触れ合いを活かした診療をモットーに患者との対話を重視する一方、データサイエンティストという異色の肩書きを持ち、医療技術や医薬品などの有効性について原典にあたり、評価手法やデータの有効性について常に確認を欠かさない。
地域包括ケア研究所にて医療局長を務め、医療者として地域社会のひとりひとりのための医療や正しい知識の普及活動に従事している。これまでヘルスケアメディアを通じて、正しく、分かりやすい健康情報の発信に携わってきており、医療や健康は一人ひとりの個人差がとても大きいため、個人にあわせた情報を記事で発信することの難しさを実感。情報を丁寧に紐解くことで、自分にあった正しい情報が分かるような発信を心がけている。

阿部 裕紀(あべ ひろき)
薬剤師。東京都出身。星薬科大学薬学部卒業。専攻は薬物治療学。
現在、化粧品会社に製造責任者という立場で品質管理などに携わる傍ら、薬に頼らないセルフケア(予防)を追求し、啓蒙活動を行う。ドラッグストアでの勤務経験を活かし、ライフスタイルに合わせた健康食品やサプリメントのアドバイスなども行う。
個人的には、薬はあまり好きではなく、自然なもの(食品に近いもの)で身体の不調を治すことを常に考え、アドバイスを行っている。