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奇形精子症とは?受精や妊娠に与える影響と精子異常の原因及び治療方法
本記事の監修者
藤本 彩巴(ふじもと あやは)
胚培養士。宮城県出身。
山形大学農学部食料生命環境学科卒業。
妊娠を目指し妊活を進める方にとって1つの壁となるのが、精子や卵子の異常です。
精子や卵子はとてもデリケートなものであり、体調や食生活でも日々変化するものでもあります。
今回はそのような異常の中でも、精子の96%以上が奇形である「奇形精子症」について、その特徴や妊娠への影響、治療方法などについて解説していきます。
年々増えている?奇形精子症とは
その名の通り、奇形精子症とは精液の中にある精子の96%以上で形に異常がある場合に、診断されるものです。
この96%以上という数値は2010年にWHO(世界保健機関)によって定義付けされました。
ではこの異常な精子とはどのような状態のことを指すのでしょうか?まずは正常な精子の形について見てみましょう。
正常な精子の形とは
精子の形と聞いてみなさんが思い浮かべるのは、オタマジャクシのような形だと思いますが、その形が精子の正常な形です。
精子はそれぞれ、頭のように大きくなっている「頭部」、頭と尻尾の中間にあたる「中片部」、細く尻尾のようになっている「尾部」の3つから構成されています。
頭部は卵子へ侵入する機能や遺伝のための機能を、中片部はミトコンドリアという小器官が存在し、卵子のもとへ行くための推進力に必要なエネルギーをつくっておりを、尾部は運動機能をそれぞれ持っています。
こちらの記事で精子について詳しく解説していますので、基礎知識を学びたい方におすすめです。
奇形精子の特徴
それでは奇形精子とはどのようなものなのでしょうか?
奇形精子は、大きく二つに分けられます。一つは「頭部が奇形のもの」、もう一つは「尾部が奇形のもの」です。
頭部に異常がある精子の場合、とても受精し辛く、たとえ受精しても非常に育ちにくいとされています。
というのも、頭部にはその人を形作る「設計図」、遺伝子のDNA情報が詰まっているからです。
同じ「精子の異常」と言っても、頭部にあるか尾部にあるかで妊娠率も大きく変わって来ます。
いくつか基準がありますが、こうした精子が、精液の中の精子の96%以上を占めた場合に、病院では「奇形精子症」(「精子奇形症」とも言われる)と診断されることが多いです。
奇形精子を持つ男性の割合
この奇形精子ですが、どの男性でも必ず奇形精子は存在します。
ちなみに成人男性の奇形精子の割合は年々増加傾向にあり、WHOの調査では、1999年には85%だったのに対し、2010年にはなんと96%まで増加しています。
参考:奇形精子症とは│男性不妊の治療、検査、相談なら「エス・セットクリニック」 (sset-clinic.com)
健常な方でも80%以上は奇形が占めていることからも、実際に問題になってくるのは、やはり奇形精子の「割合」になってくるのです。
奇形精子が受精や妊娠に与える影響
ではこの奇形精子は、具体的に受精や妊娠にどのような影響を与えるものなのでしょうか?
1番の影響は、妊娠がしづらくなることです。
奇形精子はDNA情報が正常ではない場合や、前進する力が弱いことが多く、上手く卵子に辿り着き、受精する可能性がとても低いです。
通常の自然妊娠ではこの奇形精子は、受精の過程で淘汰され、正常な精子が卵子に辿り着くようになっています。
ですが奇形精子の割合が多いと、相対的に正常な精子の割合も減るため、妊娠の確率が低くなる、ということです。
奇形精子の原因
実は、奇形精子の原因はいまだに解明されていません。
ですがストレスや食生活が原因ではないかとも言われています。
最初にお伝えした通り、精子は体調や食生活、生活リズムなど様々なものから影響されるデリケートなものであるため、普段から健康的な生活を意識しておきましょう。
奇形精子の検査方法
奇形精子症の検査方法で一般的なのが、クルーガーテストと呼ばれるものです。
クルーガーテストとは、精液中の精子に色付けをし、精子が奇形かどうかを確認する検査のことを指します。
これにより精子の奇形率が分かり、その割合が96%を超えた場合奇形精子症と診断されるのです。
精子の状態は検査でしか判明しません。そのため、妊娠がなかなかできないという方はクルーガーテストのほか、精液検査を受けて精子の状態を把握しましょう。
精液検査でわかる項目
精液検査では以下の項目を調べることが可能です。
- 精液量
- 精子濃度
- 運動率
- 奇形率
- 液化状況
- 運動精子速度
ここまで紹介してきたように精子の奇形率は妊娠への影響が大きいですが、そのほかの項目も妊娠に大きく関わっています。
例えば精液の量はしっかりと出ていても、精子の数が少ない場合妊娠は難しいですし、肉眼では判断できません。
そのため、妊活を進めるうえで精液検査は大切な要素であり、最初に受けておきたいものでもあります。
奇形精子症と診断されたら
クルーガーテストは主に奇形精子症かどうかを判断するための検査です。
そのため、クルーガーテストで奇形精子症と診断された場合、上記の精液検査でさらに細かく検査をしましょう。
精液検査で精液の問題を特定することで、今後の不妊治療の方針も具体的に決めていくことができます。
妊娠率には年齢も関係してくるため、検査で素早く方針を決めることを心掛けましょう。
奇形精子の治療方法
奇形精子症は原因が解明されていないため、具体的な治療法はまだありません。
そのためほとんどの場合は、できるだけ正常な形の精子を選び出して、奥様の卵子と受精させる顕微授精を行います。
また、症状が軽かったり女性の年齢が若かったりする場合は、人工授精から開始することもあります。
こうした不妊治療は2022年4月から基本的な治療(採卵や体外受精など)は保険適用になっています(※1)。年齢や回数の要件はありますが、1回の採卵あたりの費用は25万前後が一般的です。
(※1)厚労省リーフレット「令和4年4月から不妊治療が保険適用されています。」
奇形精子症の場合、このように高額な顕微授精を行っても、通常より妊娠する確率が低いとされています。
というのも、奇形が見えない部分にあることもあり、全く正常な精子を見つけること自体が極めて難しいと言われているからです。
顕微鏡で精子の形に異常があるか否かを精査しますが、顕微鏡からでも判別の難しいものもあります。
また、薬物療法により精子の量が増えることもあり、正常な精子が増えれば、運動精子も増し、奇形精子が減る場合も中にはあります。
奇形精子症と診断された場合は、奥様と二人で今後のことをよく話し合い、不妊治療を行っていくかどうかを決めていく必要があります。
まずは食生活、生活習慣の改善から!
日に基本的には三度、私たちは食事をとります。食生活の中でも、食べるものやそこから採る栄養分については、精子の奇形率を改善するのにとりわけ重要だと言われています。
まずは可能な限り豆類や魚介類などの高タンパク低脂肪のものや、野菜を多く摂れるようにしたいものです。
ビタミン類や、抗酸化作用のある食品を取り入れることも、良い精子を作りだすためにはいいと言われています。
抗酸化作用のあるものとしては、ポリフェノールが有名ですが、そばにもルチンと言って同様に強力な抗酸化作用をもつものが含まれています。
精液には亜鉛が高濃度で含まれており、精液を作り出すには必要不可欠なものです。
この亜鉛が不足することで、精子そのものの数の減少や、運動率の低下を招き、さらには精子の奇形率を上げることにもつながってきますので、気を付けましょう。
また、睡眠も精子の増減に影響があることがわかっていますので、良質な睡眠を一日6〜8時間はとりたいもの。
眠る前にリラックス作用のあるカモミールティーなどを飲むのも選択肢の一つかもしれません。
運動不足も体内の男性ホルモンの分泌量の減少につながります。精力減退や勃起不全などの原因をつくってしまうこともあります。
血液の循環が悪くなれば、男性機能の低下にも直結します。ふだんから適度な運動を心掛ける、良質な睡眠とバランスのいい食事をとることを心がけましょう。
まとめ
奇形精子は誰でも持っているものではありますが、その割合が多いと妊活に大きな影響が与えられてしまうものでもあります。
ですが、奇形率を含め精子の質は食生活や生活習慣で改善することも可能です。
そのため普段から健康的な生活習慣を意識するほか、クルーガーテストや精液検査などを駆使して、自身に合った妊活を進めていきましょう。
本記事の執筆者
ベビーライフ研究所編集部
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本記事の監修者
藤本 彩巴(ふじもと あやは)
胚培養士。宮城県出身。
山形大学農学部食料生命環境学科卒業。
生殖補助医療胚培養士資格、体外受精コーディネーター資格を取得。生殖細胞の操作以外にも、患者様夫婦とお話をする機会があり、その際、不要な治療を続けているご夫婦が多いことに気がつき、現在は食事・運動・睡眠の見直しを促す発信をしている。不妊治療はあくまでサポートであり、対処療法に過ぎないため、本来の身体の機能を最大限発揮できるようなポイントを、ご本人の生活に寄り添った内容でお届けしている。